2013年1月23日水曜日

全曲バイブル回想録 Help!

この曲のモノバージョンとステレオバージョンが違うことは昔から有名だった。ただし、タンバリンの有無と、ジョンの歌う歌詞の一部(andとbut、等)が違う事を指摘しているもので、これが聴き比べによる分析の限界でもあった。

Can't Buy Me Loveの調査で同期再生の効果に確信を持ったので、早速、この曲に取り掛かった。案の定、オープニング部分は全く一緒だった。Aメロ直前にテープ編集に依ると考えられる繋ぎ目がある。ここまでは想定内だった。

ところがAメロを同期させることができない。ボーカルを同期させて違いを探ろうとしていたからだ。もしやと思ってドラムスを基準に同期を試みた。するとテープ編集の痕跡が無いまま最後まで同期できた。ただし、ボーカルは一部の相違ではなく最後まで完全に違っていた。

これには悩まされた。レコーディング記録をいくら読み込んで想像を膨らませてもこの様な相違が生じる筈は無かった。拙著を自費出版した際も編集作業だけで作成可能な方法を考えて結論としたが、モヤモヤしたものが残っていた。その後も多くの時間を割いて分析したが、結局は全曲バイブルに記した呆気ない真実が隠されていた。

ただ、この曲の分析を通して、レコーディング記録以上に正確な調査ができる、という確信を持つことができた。全曲バイブルにおいて、それまでの常識と異なる結論があっても自信を持って記述しているのはこの曲の分析過程での自信に依るものである。

2013年1月18日金曜日

全曲バイブル回想録 Martha My Dear

全曲バイブルでは主としてモノバージョンの優位性を説いているが、『アビーロード』はステレオ盤しか発売されてない。つまり、どこかにステレオバージョンが優位に立った転換点があるはずである。

これは全曲を調査する過程で偶然に発見することができた。
ミキシング作業においては、ボーカルに何らかのエコーが必ず掛かっている。モノバージョンとステレオバージョンのミックス違いが全く無い場合ですら、ボーカルに掛かったエコーの些細な違いはあるものである。私の拙い文章力では、これを表現するのが難しく歯がゆい思いをする事がしばしばあった。
ところが更に困った事に、Martha My Dearではエコーの相違すらなかった。原稿の執筆に当たって途方に暮れていた時、ふと閃いた。8トラック(つまり8種類)の音をミキシングするのに全く相違が無いという、完璧な作業をできるものだろうか?しかもいつものモノバージョンより先にステレオバージョンが作成されている。ここまで辿り着けば答えは簡単である。ステレオバージョンをモノにミックスダウンするようになったのはこの時期ということだ。

2013年1月17日木曜日

全曲バイブル回想録 Blue Jay Way

面白い曲だとは思っていたが、それほど好みの曲では無かった。
その考えが変わったのは、作成過程を詳細に分析できたからに他ならない。

ステレオバージョンに加えられた逆回転の音が、実はモノミキシングされたテープによるものだった。
同期再生させると逆回転の音声が分離して聴こえる。これはいつものことである。ただ、逆回転した音であることは既知なので、たまたま同期再生の音全部を逆回転で聴いてみた。すると所々に入っている逆回転の音にストリングスの音が含まれているのが判明した。ミキシング済みのテープを逆回転で再生させたとしか思えないタイミングの音であることも分かった。ここまで来ると、後は自然に情報が溢れ出してくる。モノミキシングを終えた後で、思い付きでやってみたのであろうことも明らかだし、ジョージが主導的にステレオミキシングをしたであろうことも推測できる。

この時点で、ステレオバージョンに対する意識が変わったのは間違いないだろう。
なにしろ、モノバージョンを作り直すことは無かったのだから。

2013年1月16日水曜日

全曲バイブル回想録 Yer Blues

この曲での発見は最も誇りに思う。何しろルイソン氏の公式記録を、自信を持って否定するものだからだ。

公式記録では、「3'17"を境に2つのテイク(演奏)が繋がれている」という内容に読める。ところが、実際には後半部分は、前半からボーカルを抜いただけの同一演奏であると証明できたのだ。「後半部分と前半が同一演奏ではないか」という推測までは誰でもできるが、同期再生を使えば「同一である」と断定できる点がポイントである。

多分、公式記録に残し損ねた作業が他にもあるのだろう。私に依頼してくれたら実際の音で検証できるのに、とは思うのだが、そういう正確な情報が欲しい世代も高齢化で需要が減ってきているんだろうな〜。

2013年1月15日火曜日

全曲バイブル回想録 Hold Me Tight

作者のポールにとっては印象に残ってない、取るに足らない曲かもしれない。ソロコンサートで取り上げたことはないし、それどころかWings時代に同名曲を作ってしまってるし。

それでも、拙作の同期再生アプリにおいて、これ以上の素材はない。この曲を聴いて欲しくてiPhone/iPad版を作成したと言っても過言ではない。
http://itunes.apple.com/jp/app/id446567240?mt=8

同期再生による分析でどんなに面白い発見をしようと、文章でしか表現できないのは非常に歯がゆい。しかし著作権法の壁の前では、音を聴いてもらうことができないのである。それを解決できる唯一の方法が、私がアプリを提供し、同期させる曲は利用者が正規に購入する、というものである。

何が面白いって、この曲だけは、アビーロードスタジオですら作成できなかったリアルステレオバージョンが作成できるのである。初めてこの曲のモノバージョンとステレオバージョンを同期させた時の驚きは半端無かった。リードボーカルと演奏がセンター、コーラスと手拍子が左右から聴こえてきたのである。つまり最初に録音した演奏とボーカルがセンターから聴こえ、オーバーダブしたコーラスと手拍子が左右に分かれたのだ。このことは、モノバージョンとステレオバージョンのオーバーダブは全く別物で、マーク・ルイソン氏の調査結果にも記述ミスが含まれていることを示していた。

以降の分析のモチベーションが上がったのは言うまでもない。

2013年1月14日月曜日

全曲バイブル回想録 Girl

ファズギターが録音されているとルイソン氏が記しているが、残念ながらミキシングでは削除されているので内容の推測すらできない。ギターを歪ませた最初の音でもあるのだからアンソロジーで公開してくれても良かったのに。

アコースティックギターがどのようなものかは意見が分かれたが、耳コピを得意とする私が具体的な演奏法を示して賛同を得た。

コードチェンジの際に開放弦のストロークが入るという癖から、ジョンが8カポのEmで演奏している事は以前から気付いていた。問題はもう一本の単音フレーズを弾くギターだった。音がビビっている。ドブロギターでも弾いたのか、とも考えたがちょっと飛躍し過ぎている。そもそもジョンはEmで作曲している曲を「カポ無しでCm」などと指示するとは思えない。突然閃いたのが、「チューニングを極端に下げれば音がビビる」ということ。弦を張り替える際によく耳にしていた音だ。4フレット分(2全音)下げれば「カポ無しでCm」はEmとして弾ける。ジョンの8カポの1オクターブ下になる。実際に試してみたらなかなか良い感じ。ジョージの大きな手では、8カポでの演奏は厳しいだろうが、これなら遥かに楽に弾ける。

こうしてレコーディングの推測は完了した。ベーシックトラックを、ドラムス、ベース、ジョンのアコースティックギター、別トラックにジョージのファズギター(なのだろう)って構成で録音してから、ジョンとジョージのアコースティックギター、リードボーカル、コーラスを追加したのだろう。